今回は映画『アメリカン・サイコ』について紹介します。
びっくりするほどびっくりできないラスト。でも解説しようとすると、これは本当に面白い!となる、そんな奇妙な映画。
まず最初に言いたいことは、この映画本当に惜しい。と言うことです。いろんな仕掛けがあって、それがすごくわかりにくかったのでもったいないなってのが本心です。
いろんなサイトで語り尽くされてはいますが、自分なりに短くまとめてみたいと思います。
本記事は作品のネタバレになるような内容を含む解説・考察記事です。
作品を未鑑賞の方はお気をつけください。
映画『アメリカン・サイコ』の情報
監督
メアリー・ハロン
脚本
メアリー・ハロン
出演
クリスチャン・ベール、ウィレム・デフォー、クロエ・セヴィニー、リース・ウィザースプーン、ジャレッド・レト、他
原題
American Psycho
2000年制作/102分/アメリカ
映画『アメリカン・サイコ』のあらすじ
1980年代のニューヨーク。ウォール街の一流企業で働くエリートのパトリック・ベイトマン(クリスチャン・ベール)は高級マンションに住み、筋トレに励み、ブランド物を買い求め、完璧な生活を求めている。
婚約者も愛人もいたし、秘書のジーン(クロエ・セヴィニー)は密かに彼に恋い焦がれていたが彼の心はどこか虚ろで、目下のライバル、ポール・アレン(ジャレッド・レト)に会うたび苛立ちは募るばかり。
ある時、自分よりも格の高いレストランで食事をし、自分よりも良い暮らしをしている同僚のポール・アレンに強い嫉妬を感じるようになり、彼を自宅に誘った時に斧で殺害してしまう。
その一件を機に、タガが外れたように狂気を抑えられなくなった彼は、現実と妄想が入り混じるほどに混乱し、娼婦や女子大生を自宅に招き入れては次々に殺害するようになる。。。
映画『アメリカン・サイコ』の感想・解説
ジャケットから漂ってくるイメージでは主人公パトリック・ベイトマン一人がとてつもない快楽殺人鬼のように見えますが、その実はとんでもない、登場人物のほとんどがサイコパスでした。
ベイトマンはクールで頭が切れるタイプでは全然なく、俗っぽく感情的なタイプです。
仕事仲間とそれぞれの名刺の出来映えでバトルする有名なシーンがあるのですが、ベイトマンは汗まみれで負けを宣告します。まるで漫画の中の小学生の様です。映画『羊たちの沈黙』のレクター博士なんかと比べちゃ絶対にダメです。
この映画自体がサイコホラーに見せかけたブラックコメディですので、観ている側の個々のチューニングが必要になってくるかと思いました。
全てがベイトマンの妄想ではない
ベイトマン自体が最初に私には実態はないなどと言ってるので、彼の行う犯罪のどれが真実か、何を信じたらいいのかわかり辛くなっていますが、ジャーナリストのチャーリー・ローズとのグループディスカッションで女性監督のメアリーはこのようなことを言っていました。
「全てがベイトマンの妄想のように見えますがそれは違います。そう思ってしまうように作ってしまった私の失敗です。」
また、この原作がその過激さゆえに映画化反対の運動が起こったり抗議が来たため、それに対する保険として制作者側があえてベイトマンの脳内妄想での殺人ですよと逃げ道を作っておいた為に余計にわかりづらくなっているのだと思います。
主人公の妄想と現実が入り交じり、そこにサイコだらけのアメリカ社会が組合わさって、正直わかりにくいです。
高級レストランのドーシアに前日予約しようと電話して、店員に大笑いされるシーンがあるのですがこういうところも非常にわかりにくかったですね。前日に予約なんかとれるかボゲ!という笑いらしいですが。。。
最後にネタばらしとして映画『ファイト・クラブ』のようにひとつひとつを粒立てて説明していったら、とてつもなく面白くなったと思うのですが。。。
ベイトマンのどこまでが妄想なのか
ベイトマンがホームレスをボコボコにして殺した描写は原作では本当だと謳われているらしいので、これは本当だと思います。
その後のいくつかの殺人やその描写も、観客を煙に巻くために嘘か本当かわからない、監督に言わせれば失敗のような演出がなされている為、だいぶ誇張された現実、と捉えるのが無難のような気がします。
なんだかんだ言ってもブリーフ一枚でチェーンソーを持ちながら走るクリスチャン・ベイル。この映画としての映像は紛れもなく本当です。
前述したようにホラーやミステリーとして細かく掘り下げて見るのではなく、これはもっと痛快なコメディとして見るべきなんだと思いますね。
彼は1日1000回するという腹筋をとてつもない早さでやりながらスプラッター映画を観ているシーンがありましたが、もしかしたらその映画に映っていたチェーンソーを振り回す男と、娼婦を殺した時の記憶をうまいことミックスさせてあんなブリーフ野郎になってしまったのかもしれませんね。
みんな名前をよく間違える
登場人物誰も彼もが名前を間違えています。そんな描写がいたるところにありました。
これがフリとなり一番最後にきいてくるのです。ベイトマンは殺人を犯したことを弁護士に電話で告白するのですが、その弁護士はベイトマンと会った際に彼の名前をデイヴィスとして呼びました。
利己主義で他社に一切興味がないウォール街の住人達には名前など特に意味もないようです。
名前を間違えられたベイトマンは罪に問われることもないどころか、存在を認識すらされていなかったことに驚愕することになる程にウォール街の住人達はイカれていたのです。
ちなみにベイトマンという名前はサスペンスのクラシックである映画『サイコ』のシリアルキラーのノーマン・ベイツからきていると思われます。
引用:U-NEXT
探偵の消滅とウォール街の巨大な闇
探偵がベイトマンを追うのですが、誰が見ても明らかに急にアリバイが見つかったからと手を引きます。観客への説明不足も否めないほどに。
これは、ウォール街に関わるスキャンダルを隠蔽するためのベイトマンの会社の社長である父や、政治家の圧力があったための揉み消しを示唆しています。
探偵が不自然に出てこなくなり、観客に説明がないのは、アメリカの闇の不気味さを強調するためだと思われます。
娼婦の殺害現場であるアパートに後日ベイトマンが向かうシーンがあるのですが、大家とおぼしき女性が部屋を改装していて、「面倒は困ります、2度と来ないで」とベイトマンを追い返します。あれ程残酷な事件があった部屋も真っ白な壁に塗り替えられ、クリーンなイメージで保たれていました。
ここも素晴らしきアメリカの闇、を表している重要シーンです。
オープニングでの白い画面に赤いしたたりが一滴二滴と落ちてきて、血だと思ったら真っ赤なソースで、それをナイフで食べる上流階級。の構図の絵。
クリーンなイメージで酷いことをしてきたアメリカの歴史なのか、ウォール街の闇なのかそういったものがやはり示唆されていると思いました。
アマゾンの日本語吹き替え、最低!
アマゾンプライムでの日本語吹き替えでの視聴にはご注意下さい。蛇足ですがこれは言わなくてはなりません。アマゾンのレビューに沢山散見されるほどに吹き替えのレベルはおかしかったです。自分も聞いてみて呆れました。
キングレコードから出ているBlu-rayも吹き替えは同じ模様。ジャケットは最高なだけに惜しいです。
wikipediaでも誰も名前が出てこないような声優さんの起用。それすらもアメリカの闇なのか?と思うほどに酷いものでしたね。
最後に
説明しようとすると途端に面白くなる希にみる不思議な映画でした。
ラストの長い台詞は初見ではいまいちでしたが、というかよくわかりませんでしたが、今みてみると良くできてるな!と驚きました。
ハッキリしないことをハッキリ言葉にした秀逸な台詞だったと自分は思います。
さて、本物のシリアルキラーが出てくる映画でも見ようかな。。。
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