映画『フルメタルジャケット』ネタバレ感想・解説!ピースマークとBORN TO KILL

戦争映画

今回は映画『フルメタル・ジャケット』を紹介します。

戦争映画の中でも有名な本作品。鬼才スタンリー・キューブリック監督が描くベトナムでの熾烈な戦場を体験するかのような臨場感と、そこにいたるまでの過酷な海軍での訓練をこれでもかと堪能できます。

キューブリック監督作品の中でもわかりやすい作品だと思いますので初めて見るにはうってつけかと思います。

本記事は作品のネタバレになるような内容を含む解説・考察記事です。

作品を未鑑賞の方はお気をつけください。

映画『フルメタルジャケット』の情報

監督
スタンリー・キューブリック

脚本
スタンリー・キューブリックマイケル・ハー、他

原作
グスタフ・ハスフォード『ショート・タイマーズ』

出演
マシュー・モディーンヴィンセント・ドノフリオR・リー・アーメイ

原題
Full Metal Jacket

1987年製作/116分/アメリカ

引用:amazon

映画『フルメタルジャケット』あらすじ

ストーリー前半(海兵隊の訓練シーン)

ベトナム戦時下のアメリカ、海兵隊に志願した青年たちは訓練キャンプで厳しい教練を受けることになる。

鬼教官ハートマン軍曹(リー・アーメイ)の指導のもとで行われる訓練は、徹底的な罵倒、体罰が加えられ続けるという、心身ともに過酷を極めるものだった。

落ちこぼれだった訓練生レナードヴィンセント・ドノフリオ)は、ハートマン軍曹から早々に目を付けられ、レナードの連帯責任として懲罰を受けることになった訓練生たちからも、激しいいじめを受け続ける。

精神に変調をきたしてしまったレナードは、遂に卒業式の夜にある事件を起こしてしまう。。。

ストーリー後半(ベトナムでの戦闘シーン)

厳しい訓練を耐え抜き一人前の海兵隊員となった彼らは、ベトナムへ送られる。

報道部員のジョーカーマシュー・モディン)は前線での取材を命じられ、訓練所での同期であったカウボーイアーリス・ハワード)と再会し、彼が属する小隊に同行することとなる。

ある日カウボーイたちは、情報部から敵の後退を知らされ、その確認のために最前線の銃火の真っ只中に放り込まれる。

上官たちが次々と殺されていき、残る下士官のカウボーイが部隊を引き継ぐも、進路を誤って進んだところに狙撃兵の待ち伏せを受け、仲間は次々と殺されて行くのであった。。。

映画『フルメタルジャケット』の感想・解説

映画『シャイニング』の衝撃から7年後に作られた、キューブリック監督の最後から一つ前の作品にあたる本作品。

前半が海軍の訓練を描き、後半はベトナムの戦場での戦いを描くという二部構成で作られているため見やすさはあると思います。

原作は小説の『ショートタイマーズ』から。キューブリックはこのタイトルが「パートで働く人」を想像させる為、違うタイトル案を探していて、ある日銃のカタログで偶然見つけた「フルメタル・ジャケット」という言葉を採用しました。

「銃弾に鉛のカバーを被せる」という意味のこの言葉は、この映画にあるテーマの人間の改造と一致した為これ以上ないと思ったからです。

映画史に残る前半の訓練シーン

冒頭は甘くリヴァーブがかかったギターと美しいコーラスが魅力の音楽と、坊主に刈られる沢山の若者たちの顔のカットから始まります。

ここである種の青春やロマンチックさは綺麗な髪と共に刈り取らてるとわかるわけです。これから戦争に行くための準備が始まる事が説明もなく、感覚でわかる名シーンだと思います。

露骨でタイト、堅い演出というか、キューブリック映画だな~と思いました。

引用:映画.com

そしてこの映画を語る上での重要シーンはやはり前半。これがあるから後半の戦場シーンも映えるという気がしました。

鬼軍曹によるしごきのシーン。海兵隊の、殺人マシーンを作るための人権なんて無視した言葉の数々。竹を割ったような、ある意味美しさすら感じるラップのような罵詈雑言が特徴です。このシーンだけで楽しい楽しい。

惚れ惚れする罵詈讒謗を吐き出すハートマン役は当初、R・リー・アーメイではなく別の役者が演じるはずでした。

アーメイは元海兵隊という経歴を買われ、テクニカルアドバイザーとして映画『地獄の黙示録』などの製作にも参加していました。

『フルメタル・ジャケット』でもアドバイザーだったのですが、その暴言の素晴らしさにキューブリックが惚れ込んで、ハートマン役に抜擢したとの事です。

股間を触らせながら行進するシーンなどもあり、苦手な人はここらへんでやめてもいいかと思います。あくまでもキューブリックによる演出だと思いますので。

引用:amazon

読み違えてはいけないのが、アメリカの5軍ある軍隊の中で一番過酷で残忍なのがここで描かれた海兵隊だという事です。本作品が、戦争を描いた映画、と大きなくくりにしてしまうとと少しテーマとズレてくるように思います。

言葉による暴力と洗脳

キューブリックは「言葉によって人間は改造できる」と主張しました。その仮説を実証するための実験的な前半40分。

この訓練シーンのセリフはキューブリック監督にはかなりこだわりがあるようで、監督自ら日本語字幕のチェックをしたという徹底ぶり。

もともと戸田奈津子さんが日本語訳をあてましたが、監督はその柔らかく変換された表現を却下し、原田眞人さんが起用されたとの事。

監督から直訳での言葉選びを要求された結果、あのようなインパクトのある台詞になったのです。個人的にはこれには賛成で、頭のおかしい軍曹の台詞はマイルドにせず、やはりそのまま直訳して欲しいとは思いました。

ハートマン軍曹は「俺は厳しいが公平だ、人種差別は許さん。黒豚、ユダ豚、イタ豚を俺は見下さん。すべて平等に価値がない!」こんな台詞を言っていました。

ある意味的を射ているようで感動すら覚えます。戦場では誰もが同じだ。機械になれと言っているようですが、人種差別はここでは解消されるという皮肉もあり、完璧な毒舌には真実も含まれていなければいけないのかなというような学びもあります。

キューブリック監督は、訓練シーンでの兵舎内での一連の流れで、全員の人物にフォーカスされるように特別なレンズを作ったとの事です。

誰も特別ではなく同じ待遇だ、ということを見せたかったのだと思いますが、まるで先程のハートマン軍曹の「すべて平等に価値がない」という逆説に満ちた愛のような熱意を感じましたね。

後半の戦場シーン

後半はくねくねと歩くベトナム女性のお尻のアップのカットから始まります。前半からの流れを一気に絶ちきるような陽気な絵作りでした。

ハートマン役の予定だったティム・コルセリは、交代させられたことが非常に不満だったといいます。代わりに演じた輸送ヘリから眼下のベトナム農民を片っ端から撃ち殺す兵士の役では、「逃げる奴は皆ベトコンだ、逃げない奴はよく訓練されたベトコンだ」と言っていました。

さらにジョーカーの「よく女子供が殺せるな」という質問に対しては「簡単さ、動きがのろいからな」と答え、「ホント、戦争は地獄だぜ!」と言い放つという、数分の登場ながら狂気に満ちた演技を見せます。

この有名なヘリのシーンでさえも、前半の狂気に満ちたハートマンや、舞台裏での交代劇からの恩恵によるものだと思うといかに前半が重要かよくわかると思います。

カットされたシーンでは海兵隊がサッカーをするシーンがあり、あろうことかボールが人間の首だったそうです。さすがにそれはカットして良かったのかもしれませんね。

ピースマークとBORN TO KILL

後半の主人公であるジョーカーの、胸にはピースマークのバッジをつけ、頭にはBORN TO KILL(殺すために生まれた)と書いたヘルメットを被るというスタイルは、人間の二面性を如実に表しています。

引用:amazon

ギリギリの状況に置かれた、トランプで言えばどちらにも振りきれるという意味のジョーカーが人間の狂気と愛を同時に持ちながら戦場に降り立ちます。

ラスト、狙撃兵のベトナム人を倒すことに成功するが、まだ生きていたため、兵士の間に葛藤が生まれます。

ジョーカーは狙撃兵に懇願され、銃で殺します。周りは、ねずみと一緒だと放っておくことにしましたが、彼は皮肉なことに撃ち殺すことで彼女の願いを聞き、人間扱いしていました。ジョーカーはひとつ大人の兵士になり、何も怖いものなどないという。

戦争も怖くないと言えるなんて、気が違ってしまったと捉えることもできますね。胸のピースマークも両手に持った拳銃に隠れて見えなくなっています。見えるのはヘルメットのBORN TO KILLのみ。演出は見事だと思います。

キューブリックは最後にジョーカーを殺してしまう予定でしたが、共同脚本のマイケル・ハーに反対されました。なぜならジョーカーの人間性は既に消え、単なる殺人マシーンとなり、それはつまり事実上ジョーカーの死を描いているのだからだとの事。キューブリックはその意見に納得しあのようなラストになった訳です。

元カメラマンのキューブリック

戦場での絵作りではキューブリックによる神の視点というものを存分に味わえます。戦場の画面に奥行きがあり、全てにピントがあっていて、地味ですが情報量が多いです。

超巨大なセットが奥に配置され、人物は手前、その画面がローアングルから横スクロールで動いていくので、目に楽しいです。右に画面は動き、次は左に、最後はゆっくりズームしていく画面の奥へと兵士は進むというどっしりとした演出。

山場である大規模な銃撃戦のシーンでは、相手の姿は一切みえず仲間がひとり、またひとりと撃たれていくところが不気味です。

静かな不協和音の中、台詞も少なく、引きのカットの連続でこの山場が描かれていくのですが緊張感もあり、なぜだか映画に浸れる安心感みたいなものもありました。

元写真雑誌のカメラマンだったキューブリック監督の確かな絵作りの手腕を感じましたね。

曲の使い方

オープニングの散髪シーンに使用された、ジョニー・ライトによる『ハロー・ベトナム』は甘ったるいサウンドが南国の陽気を感じさせて、タイトルそのままの雰囲気を持った曲でした。このシーンは短いですが何気に名シーンだと思いますね。

戦闘に勝利するシーンでは、トラッシュメンによる『サーフィンバード』という、パンキッシュな曲がかかります。ラモーンズなんかもカバーしていたみたいです。

この映画を体現したような、ビートが速く、怖いけどポップな曲です。パンクが誕生した時代ともこの映画はちょうど合っていたのでしょうね。かなり人を選ぶ曲ですが、それもこの映画を体現しているみたいでした。

ラストは燃え盛る炎の中、兵士全員で『ミッキーマウスマーチ』を歌うというキューブリック節全開の演出で、狂った地獄が見事に表されていました。戦争の空虚さと馬鹿馬鹿しさが曲によってあぶり出されてくるようです。

エンドロールではローリング・ストーンズによる『ペイントイット・ブラック』!!

これでもくらえと言わんばかりの最高の選曲でした。跳ねたビートの乗りも、歌詞の意味もこの映画にぴったりでした。(赤い扉なんて黒く塗っちまえよ。他の色なんていらねえ全部黒くなればいいんだ。)

グロテスクだけど、どこか痛快な気分になれるこの曲。ですがあまりにも硬派で濃い選曲が続くので苦手な人もほんと多いかと思いますね。。。

この選曲でもわかるように、キューブリックは反戦を描いてはいないんだろうなと思います。物語性を排除して、まるでシングル曲の寄せ集めのように海兵隊や戦場を描いたらこうなっただけなんだと思いました。

最後に

最近は時代の流れとしてCGでなんでも表現できてしまうので、それに見慣れてしまえば逆にセットのほうが迫力があると思いました。

キューブリック監督の演出のように、巨大なセットを奥に配置して、ローから固定されたカメラを横にスライドさせていくカットも、あれが答えかと思うほど戦争映画には合っていたと思いました。

確か映画『戦場のピアニスト』にも同じようなシーンがあったような。。。

今度もっかい見てみよ。

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