今回は映画『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』を紹介します。
ゾンビ映画の第一人者、ジョージ・A・ロメロ監督の一作目にあたる本作品。「ゾンビ」という新しいモンスターを世界中に浸透させた金字塔的作品でもあります。
白黒低予算の装飾の少ない映像がカルト的なホラー映画の質感とマッチしていました。脚本は隙はほとんどなくて、ある意味完璧に近いと言ってもいいかもしれません。パンデミックの恐怖や黒人差別などまさに現代でも通用しうるテーマが描かれていて驚きました。
それでは解説していきます。
本記事は作品のネタバレになるような内容を含む解説・考察記事です。
作品を未鑑賞の方はお気をつけください。
映画『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』の情報
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監督
ジョージ・A・ロメロ
脚本
ジョン・A・ルッソ
出演
デュアン・ジョーンズ、ジュディス・オディア、カール・ハードマン、キース・ウェイン、他
原題
Night of the Living Dead
1968年/96分/アメリカ
映画『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』のあらすじ
ある兄妹が墓参りの途中ゾンビに襲われた。兄を殺された妹は恐怖と悲しみの中近くの民家に逃げ込む。民家には黒人青年のベンの他、若いカップル、中年夫婦とその娘という男女七人が集まる。
墓場の近くの一軒家に取り残された彼らの周りを大量のゾンビが取り囲む。なんとか脱出する方策を探る黒人青年ベンに対し、民家にあった地下室に籠ることにこだわる白人青年ハリーが対立する。
結局彼らは脱出しようと試みるのだが…
映画『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』の感想・解説
監督のジョージ・A・ロメロは1968年、当時28歳の時に本作品を初監督しました。
その後1977年に『ドーン・オブ・ザ・デッド 』(邦題 『ゾンビ』)、1985年に『デイ・オブ・ザ・デッド 』(邦題 『死霊のえじき』)と続編が製作され、これらをまとめて『リビングデッド三部作』と括られています。
ゾンビ登場
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ゾンビ映画の記念碑的作品として知られる本作として語られがちですが、世界最初のゾンビ映画ではありません。筆者もゾンビというモンスターはロメロが考案したとばかり思ってたのですが違いました。最初のゾンビ映画は1932年公開のアメリカ映画『恐怖城』(原題『ホワイト・ゾンビ』)とされています。
『恐怖城』でのゾンビは、”ゾンビ使いにただ操られているだけの死体”という存在だったのに対し、本作品では自立したモンスターとして描かれていて、「死者が蘇って生者の肉を喰らう」「ゾンビに噛まれた者も、またゾンビになる」「脳を破壊されるまで活動を停止しない」という、どこか現実にいるんじゃないか?と思わされるような”モダン・ゾンビ”が定義された作品です。
本作品ではゾンビは生前の習慣を繰り返すという設定はまだなく、『ゾンビ』(原題『DAWN OF THE DEAD』)で初めて描かれます。そして本作品ではゾンビはグールと呼ばれているように、この頃はまだゾンビとは呼ばれていませんでした。『ゾンビ』(原題『DAWN OF THE DEAD』)の製作に協力したダリオ・アルジェントがイタリアでの公開時にタイトルに「ゾンビ」という言葉を入れたことがきっかけだったといいます。
ロメロが伝説となったのは本作品から10年後の78年制作の『ゾンビ』(原題『DAWN OF THE DEAD』)からであり、それにはダリオ・アルジェントの協力や熱狂的なファンの支持があって偶発的に成し得たというのが真実に近いのかもしれません。
ゾンビを再定義しようなんて、ロメロはそんなつもりもなく、元々SF小説『地球最後の男』を映画化したいと考えていて、そのアイディアを下敷きにこの映画が作られた模様です。ちなみに『地球最後の男』原作といえば2007年の映画『アイ・アム・レジェンド』が有名です。
個人的には本作品で虫を食べるおばあちゃんゾンビがいたことがおかしかったです。2009年のロメロ作品『サバイバル・オブ・ザ・デッド』で馬を食べさせることでゾンビを飼いならせるかどうかを描いていましたが、もう一作目で偶発的に虫を食べれるゾンビが描かれてることでゾンビの飼いならしはできたのでは?と思ってしまいましたが、それはちょっと細かく見すぎですね。
ゾンビがあらわしていったもの
『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』公開年の68年はベトナム戦争の最中で、アメリカ国内では迫害されてきたアフリカ系アメリカ人が基本的人権を勝ち取るための公民権運動が激化していました。
多民族国家であるアメリカの、内戦への恐怖がこの映画の持つ、いつ誰がゾンビになり襲ってくるかわからない恐怖と上手く重なり、また、公民権運動に揺れる世相の、新旧世代の価値観がぶつかり合って、互いに世代間の潰し合いになっていくことへの不安も、籠城した黒人青年と白人青年の諍いが表していたと思います。オーディションで選ばれた主人公の青年が黒人だったことが当時は衝撃的だったそうですが、ロメロには公民権運動をあらわす意図はなかったようです。
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さらには籠城した山小屋で、少女がゾンビに変わるシーンや、黒人青年と自警団の老人たちとの末路もどこか68年に流行っていたカウンターカルチャーの台頭やその不安を描いていたのだと思います。
なぜか偶然とはいえ、この映画の持つ革新性が、当時のアメリカの持つ現実的な不安と合致することになり、一部の熱狂的なファンに歓迎され様々な考察を生んでいきました。ロメロはあくまでも細かいことは抜きに作品をどんどん作っていく職人であり、この様な運が重なって伝説と化していったのだと思います。
ジョージ・A・ロメロの最大の特徴
本作品は、食人、未成年者による親の殺害、黒人が主人公、アンハッピーエンド、といった当時としてはかなり刺激的だったであろう反ハリウッド的な作風が特徴的です。
そして物語の本枠は、ゾンビが発生した町で一軒家に逃げ込んだ7人の男女がいて、家はゾンビに囲まれてしまい、ラジオからは断片的な情報しか入ってこない。彼らは脱出法を模索するが、仲間割れをはじめ、悲劇が訪れる。といったものです。まさに原点にして頂点といったゾンビ映画の基本を成すものでありながら無駄なシーンがなく、次々展開する様はとても引き込まれ、構成的には素晴らしい出来だと思いました。
本作のゾンビ相手に山小屋に籠城するのは得策ではないと思うのですが、そこは低予算なので、密室劇にするしかしょうがなかったのだと思います。本作品から沢山のオマージュシーンがあるジム・ジャームッシュ監督の『デッド・ドント・ダイ』では、主人公たちは籠城ではなく、街に出て逃げる演出になっていたので比べて観てみると面白いかもしれませんね。
オーディションで選ばれた主人公の青年が黒人だったことが当時は異色だったようで、結末で描かれたアンハッピーエンドはまさに現代のアメリカ社会にも通用しうる皮肉が効きすぎていました。この効きすぎた皮肉も、偶然といえばそうですが、ロメロの演出方法による独自のリアルさに端を発しているのだと思います。
例えばテレビやラジオから流れるニュースも情報は少なく、「不思議な放射線の濃度は上昇してる」なんて幼稚なアナウンスがあったりしましたが、その幼稚さもまたリアルで、本当にあったニュースのようでした。またエンドロールでの写真のスライドショーの演出も、新聞の社会欄の一面というような趣で、リアルで不気味さもありました。びっくりさせる演出に頼らず、登場人物はリアルに行動しますが、予定調和はないというサバサバした展開もロメロの作風だと思います。
ロメロの冷徹で、無骨なドキュメントのような作風がリアルを呼び込んだのだと思います。決してオシャレやゴージャスではないのが社会風刺にマッチしていた、という感じでしょうか。
結局最後は人間同士の争いになり、パニックに陥った人間ほど怖いものはない。というのがロメロの描いてきたものとされてますが、ロメロの気質を探っていくうちに本作品に至っては、普通にゾンビに殺されるより、人間に殺されるほうが以外で面白いからそうしたんだと、それが、答えなんじゃないかなと思いましたね。
最後に
本作品、いろいろ筆者は語りましたが、なんだかんだでもう一回は観ないかな~。シンプルに、ちょっと画質が暗すぎたもんで。ただこの次に撮るゾンビ映画『ドーン・オブ・ザ・デッド 』(邦題 『ゾンビ』)これは未見なので凄く楽しみ!
本作品ではどこか、自主映画を撮る楽しさみたいなものも感じられたのですが、やっぱりどこか隙もありつつ、隅に置けないところのあるロメロの映画は魅力的だなと思いましたよ。それでは♪
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