今回は映画『ローラーガールズ・ダイアリー』を紹介します。
ドリュー・バリモアが初監督した本作品。ガールズパワー全開で、あまりにも王道な展開に驚きつつも、これぞアメリカンな絵作りと、要所で鳴るパワーポップ、役者さんの陽気な気迫にスッキリ感動しちゃいました。ちゃっかりドリュー本人も出演してるところも良かったです。
本記事は作品のネタバレになるような内容を含む解説・考察記事です。
作品を未鑑賞の方はお気をつけください。
映画『ローラーガールズ・ダイアリー』の情報
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監督
ドリュー・バリモア
脚本
ショーナ・クロス
出演
エリオット・ペイジ、マーシャ・ゲイ・ハーデン、クリステン・ウィグ、ドリュー・バリモア、ジュリエット・ルイス、ゾーイ・ベル、他
原題
Whip It
2009年/112分/アメリカ
映画『ローラーガールズ・ダイアリー』のあらすじ
テキサスの田舎町で退屈な日々を送る17歳のブリス(エリオット・ペイジ)は、母親に言われるまま、美人コンテストに出場している。そんな彼女は、古着屋で見つけたチラシを元にローラーダービーの観戦に行き、すっかり魅了される。
彼女は年齢を偽わり、家族にも内緒で新人テストに参加し、合格する。徐々に打ち解けていく仲間たちとの交流や激しい試合での成長、バンドマンの彼氏との恋愛、バイト先の友達との友情が瑞々しく描かれる。
映画『ローラーガールズ・ダイアリー』の感想・解説
どんなスポーツ映画、さらにはスポーツ漫画を見渡しても、本作品ほど王道な展開を盛り込んで突っ走った映画はあまりないと思います。
あまりにもど真ん中に豪速球のストレートが飛んで来る為、笑ってしまいました。カーブもフォークも無し。後半はあまりにもベタが続くため、逆に意表をつかれっぱなしでしたね。
感想も、こんな風に野球を模したものになってしまうぐらいの、逆に言えば真面目に見ることができない、そんな映画でした。
王道すぎる展開
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具体的には言いませんが、大きなアウトラインとして以下のような流れがありました。
主人公は学校でいじめられていて、スケートチームのライバルにも良くは思われてはいない。元々足が早い、才能ある小さな主人公が試合で活躍できるのか?の流れ。
主人公がローラースケートをするのに反対の両親、得に母親とは最後にむけてどう折り合いをつけて行くのか?の流れ。
あとは友達と喧嘩してしまい、どうなるか?彼氏ができて浮気されてしまい(それはどこから見ても浮気顔でした。)最後どうなるか?の流れが、大きくあったと思います。
その全てが、そっちだよね!という終わり方をするのですが、努力、勝利、友情を描くことがこれ程まで潔いと、胸がすく思いでした。ドリュー・バリモアは小さな世界にはいないのだと何故かそんな風に思わされましたね。
ドリュー・バリモアのプロデュース力
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努力、勝利、友情を描く為の演出としての、ワンカットごとの情報量の多さに加え、シーンの切り替えを短くしている、この説明的な画面と、説明的じゃないシーンの切り替えの早さのバランスの、細やかな配慮には驚きました。
例えば主人公が個人練習するシーンも短いシーンがいくつか繋ぎあわされていて3分もないくらいです。ローラースケートに初めて出会うシーンも、古着屋で母と買い物中にタトゥーだらけの女達を見かけ、チラシをこっそりもらい興味を持つというシーンでも凄く短く感じました。
それでも画面から伝わる情報量は多く、シーンの切り替えは短めながら満足度は高かったです。彼氏が出来てデートを重ねるシーンも速い速い。
恋に生き、友情も育む。その全てが短く、並列的だった為、薄っぺらく感じてしまう人もいるかとは思いますが、全部のエピソードを均等にして、ご機嫌な音楽で短く大量に繋ぎ合わせるという豪腕な編集に新しさも感じられました。
個人的に驚いたシーンは、主人公はロッカーに閉じ込められたり、ロッカーに首吊りの人形をかざられたり、なかなかないじめにあっていたと思うのですが、編集はあまりにも短く、主人公は何も気にしてないように見えたことです。ここは結構驚きました。薄味な編集とも取れますが、ドリュー・バリモアにとって人生は編集次第。と教えられたようでした。
本作品にある新鮮さ
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本作品は王道が続くと前述しましたが、新鮮に見える部分も多数ありました。
オープニングやエンディングで見られた沢山のフォントによる文字の羅列。手作り感があり、インディペンデント精神が感じられました。いかに斬新なフォントをタイトルなんかに使うのかも映画作りの上で重要な見どころだと思います。それが本作品では沢山見られました。
テキサス州オースティンという、映画ではあまり見かけないロケ地を選んだことに感じた反ハリウッド精神。
それと、スタント無しでのローラーゲームの試合。ローラーゲーム自体が目新しかったです。スポーツというよりは、ほとんど女子プロレスにも近く、ゴスなメイクを施し、態度の悪さが人気プレーヤーになるために必須という接触型スポーツであるところも面白かったです。『ギルバート・グレイプ』で真面目な少女を演じたジュリエット・ルイスがビッチ感満載のヒールを演じているところも本作品を見た人を驚かせたと思います。
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ただ早く滑ればいいというのではなく、突き飛ばしたり、挑発したり、意図して相手を倒す。見世物的な、派手な面白さが大きな魅力な筈で、個人的には『デス・プルーフ』で有名なスタントウーマン・ゾーイ・ベルを出してるのに、なぜ彼女に大技やらせる見せ場を作ってあげないのかとは思いましたが。
最後に、ガールズパワーが画面から溢れているところも大きな特徴だと思います。一つのクライマックスでもある、チームメイト全員を巻き込んだ食堂での乱闘シーンがあるのですが、あれってよく考えてみたら何であそこにパイ投げに最適なクリームパイがいくつも用意されてんの? って疑問がふと頭をよぎりますが、鼻血べっとりやヘン顔をやたら披露したりとやりたい放題に楽しみまくってたドリューが、やりたかったんだろうなと思います。喧嘩しているはずなのに最後は笑顔でパイ投げしてたりして、役作りもあったもんじゃなかったですが、楽しさが伝わってきます。
ここまで本当にやりたいことをやる。そういう陽な映画作りは意外とあまり見られない現象なのかとも思いましたね。
ドリュー・バリモアはストロークスの彼女だったって事
後半の試合のシーンでザ・ストロークスの「Heart In A Cage」が掛かって、知ってる人は笑ってしまったと思いますがドリューはストロークスのドラムのファブと、この映画を撮る前に付き合っていました。元彼のいたバンドの曲を使うぐらいなんでもない事なんだなと驚きましたね。
主人公が彼氏とレコードを聴くシーンでは、数あるレコードの中からLittle Joyというバンドを選びます。Little Joyも、ドリューの元カレ、ストロークスのファブがやってるバンドな為、笑ってしまいました。ファブの当時の彼女が歌ってる5曲目っていうえらく隙間な選曲をわざわざチョイスする徹底ぶりです。
主人公と彼氏がプールの中に潜り戯れるシーンがありますが、ニルヴァーナのアルバム「ネヴァーマインド」のジャケットの様な世界感が表現されていた様に思います。90年代のロックのイメージはこういう感じだよな~と思いました。映画『サムウェア』にもストロークスの曲にのせた同じようなシーンがあるので、当時のロックとプールって相性いいのかも?と思いましたね。
ところどころにロック・ファンへの小さなお遊び的サービスがあるのも楽しいです。ニルヴァーナファンならダニエル・ジョンストンTシャツやダニエル・ジョンストンの壁画にピンとくるでしょうし、アイアン・メイデンをもじった呼び名にも笑うと思います。勿論ストロークス、レディオヘッド、ブリーダーズ、ラモーンズ、が流れる瞬間はベッタベタですが、スルーはできませんよね。
最後に
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この映画、決して映画狂(シネフィル)なら抑えとかなきゃならない作品だとか、死ぬまでに観ないといけない映画とかではないと思うんです。評価とかの軸を超えた、それとは別の世界線にある映画だと思いましたね。
どんな世界にいても、楽しんでいる人って、まぁ~強いですね~。
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